理事長からのご挨拶(2005年)
この度、高橋清久先生の後任として、日本時間生物学会の理事長をお引き受けすることになりました。日本時間生物学会の立ち上げとその後の発展に会長あるいは理事長としてご尽力された千葉喜彦先生、高橋清久先生を見習い、また会員の皆様のご協力を頂きながら、さらなる学会の発展に貢献できればと考えております。よろしくお願い致します。

本間研一(北海道大学医学研究科統合生理学講座)
日本時間生物学会は、1995年、生物リズム研究会と臨床時間生物学研究会が合併して設立され、私は学会設立準備委員として学会の誕生に立ち会い、その後は運営委員あるいは理事として会の発展をつぶさにみて参りましたが、この間の学会の発展は目を見張るものがあります。設立当時の事情については、日本時間生物学会会誌l巻l号に川崎晃一先生と高橋清久先生が詳しく書かれております。生物リズム研究会は、どちらかというと生物学的な立場からの基礎研究が主流で、一方、臨床時間生物学研究会は、睡眠学を中心とした臨床医学的研究が主でした。当時、学問の細分化、専門化に伴い、学会も統合よりは分裂あるいは分科会化が普通でしたが、逆に統合へと進んだ時間生物学は大変ユニークでした。これは、時間生物学の幾つかの原理が細胞機能からヒトの睡眠や行動に至るまで共通していることによると思われます。ポストゲノム時代では、「分子・遺伝子から行動へ」があたかも合い言葉のように唱えられ、分野横断、学際的、文理融合、トランスレーションなどがキーワードとなっていますが、時間生物学会はいち早くこれを具現化した先駆的な学会と言えます。その後の時間生物学会の発展は、会員数が発足当時の271名から500名を超え、平成14年には日本学術会議に登録されて(第7部生理学研究連絡委員会)、名実ともに学術団体として認知されたことによく現れています。学術集会の演題数も100を超えるまでになりました。一方、この10年間の時間生物学の発展、特に生物時計の分子生物学的研究の発展には日本時間生物学会の会員が大きな貢献をしております。被引用件数が上位1%の学術論文を基とした最近の文部科学省の分析結果をみますと、「生物時計」の研究領域は日本人の論文の占める比率が他領域に比べ顕著に高い分野です。一方、概日振動体が視交叉上核だけでなく、他の組織や器官、臓器にも存在し、機能していることが次第に明らかになり、器官や臓器レベルの生理学的、病理学的研究にも概日リズムの視点が必要になってきています。今後は、臨床医学やその他の応用科学との連携が益々重要になると思われます。
この様な流れの中で、本学会の当面の課題を3つ述べてみたいと思います。
第一は、言うまでもありませんが、会員の学術研究の深化に資する活動を学会として行うことです。学術集会をさらに充実させるとともに、学生会員や初学者のためのセミナーや時間生物学の教科書の発刊を考えてもよい時期ではないかと思います。また、本学会の学際的特徴を生かして、近縁の学会との交流や学術集会の合同開催を通して、時間生物学のおもしろさや重要性を伝えるとともに、異なる思想、や技術を積極的に取り入れることが学問の深化につながると思われます。さらに、昨今問題となっている光環境の劣化による行動リズム障害やサマータイム制度の導入の是非などについても、学会として社会に発言していく必要があるのではないかと思っております。ここ数年の研究費の流れをみても、国際的にリードしている分野か社会的ニーズの高い分野が有利なようです。
第二は、国際交流の促進です。数年前、日本時間生物学会の主導のもとに世界の時間生物学に関する学会の連合組織、WFSC(World Federation of Societies for Chronobiology)が設立され、第一回大会が札幌市で開催されました。第二回は、2007年米国のシカゴで開催予定です。すでに述べましたが、時間生物学の研究における日本人研究者の貢献はめざましく、この分野で世界をリードする絶好のチャンスです。その為にも国際交流を促進し、情報やアイデイアの交換を積極的に推し進める必要があると思われます。
第三は、学会の学際的特徴を最大限に発揮することです。時間生物学、とくに生物時計の分野は、パクテリアからヒトまで共通の科学用語で話ができる唯一の分野と言っても過言ではないでしょう。環境問題にせよ、人口問題にせよ21世紀の人類の課題を考えるとき、時間生物学は1つの研究モデルになります。これまでは、理学系、医学系、農学系などが時間生物学の主流でしたが、これからはさらに数学系、工学系、社会学系などが加わり、総合科学として発展することが期待されます。
最後になりましたが、学会運営には事務局長を始め理事の方々のご協力を得て、会員の皆様の要望をできるだけ吸収していきたいと思います。
平成 17年1月 記
