奨励賞受賞者が決定しました!
第23回(2025年度)の日本時間生物学会奨励賞受賞者が決定しました。おめでとうございます!
今後益々のご活躍を期待しています。
【基礎科学部門】
氏名:中山 友哉(なかやま ともや) 氏
所属:名古屋大学
研究題目:脊椎動物における季節適応の分子機構
受賞理由
中山氏は、脊椎動物における季節適応の分⼦機構に興味を持ち、主にメダカを研究対象として、オミックス解析を駆使した独自の視点から、光周性や季節性の研究を進めてこられました。その過程で、光感受性や⾊覚の季節変化の分子機構、長鎖ノンコーディングRNAがストレス応答の季節変化制御において果たす機能、うつ様行動の季節変化の分子機構などで、顕著な成果を上げられています。中でも、今まで実態がほとんど明らかになっていない概年リズムに関して、恒常条件下において約1年周期で振動する概年発現遺伝子群を発見し、概年リズムの分子生物学的解析の道を切り拓いたことは鮮烈な印象を残しました。また、若手の会の世話人を務めるなど若手研究者のリーダーとしても積極的に活動されています。このような視点から、中⼭氏は将来のさらなる活躍を大いに期待できる研究者として受賞にふさわしいと評価されました。
氏名:久保田 茜(くぼた あかね) 氏
所属:奈良先端科学技術大学院大学
研究題目:光と温度を起点とした陸上植物の日長応答の制御機構
受賞理由
久保田茜氏は、一貫して植物の光周性を分子レベルで解明する研究に取り組んできました。同氏はまず、陸上植物の原型を色濃く残す苔植物(ゼニゴケ)において、顕花植物と共通の分子モジュールが、本来の機能である開花ではなく、栄養成長から生殖成長への相転換に利用されていることを突き止めました。さらに、世界に先駆けて野外の植物に対する分子レベルの研究に着手し、実験室環境では見過ごされてきた温度変動と長波長の光の重要性を指摘することで、この分野に全く新しい視点と研究アプローチをもたらしました。この先駆的なアプローチは、現在の光周性研究における主要な潮流のひとつを生み出しており、多くの後続研究を触発した点が高く評価されました。時間生物学や光周性花成の分野で独自の展開を切り拓くことが大いに期待され、まさに当該分野の未来を担う研究者として、より一層の活躍が期待されます。
氏名:儀保 伸吾 (ぎぼ しんご) 氏
所属:Institute for Basic Science
研究題目:時間波形に着目した体内時計と冬眠の理論研究
受賞理由
儀保氏は、非線形動力学や信号処理の知見を概日時計研究に積極的に取り入れ、波形と周期が陽にカップリングする数式を 求めて精緻に解析することで、概日時計の波形の歪み(形状)が、周期の温度補償性や同調と密接に関係していることを数学 的に初めて明らかにされました。さらに、実験研究者たちとの共同研究により、時計遺伝子CK1 mRNAのメチレーションと 周期長の関係について数理的に重要な解釈枠を提供するとともに、波形の歪みと周期の関連についての実験的な証左を得ることとなりました。時間生物学で注目されてこなかったリズム波形に着目するこれらの研究は、音響工学を背景にもつ儀保氏な らではの視点に基づくものであり、着実にご自身の時間生物学的探究を深化させている点が高く評価されました。若手の会の 世話人経験もあり、今後の時間生物学の発展に貢献する理論家として受賞にふさわしいと評価されました。
【基礎科学部門】
氏名:江藤 太亮(えとう たいすけ) 氏
所属:慶應義塾大学
光環境の個別最適化と個人の生物時計特性の高効率計測に向けた科学的基盤の構築
受賞理由
江藤氏は、ヒトの概日リズム、メラトニン分泌など光に対するヒトの非視覚的な作用に関する研究を実施し、継続的に多くの論文を発表しておられます。特に、光感受性の年齢差に着目した研究では、水晶体の光透過率を測定するシステムを独自に開発し、子どもが大人に比べて光の影響を受けやすいことを明らかにした研究は独創性もあり、高く評価されました。また、朝型夜型クロノタイプを調査するための英語の質問紙(質問集)の日本語版の作成や、概日リズムを考慮した新たな光の単位(メラノピックEDI)を日本人向けに紹介する記事を執筆するなど、当該分野の普及にも努めておられます。海外の研究者との共著論文もあり、今後の国際的な活躍も期待されます。このように、学術的な業績、国際性、学会への貢献において十分な実績をもって、臨床・社会部門の受賞者として相応しいと高く評価されました。