第5回日本時間生物学会学会報告

会 長  川 崎 晃 一
九州大学 教授 (健康科学センター長)

 第5回日本時間生物学会学術大会は,平成10年11月13日から14日の2日間 ,福岡市健康づくりセンターで開催しましたが,関係各位の御協力により無事盛会の うちに終了することができましたことを先ず御報告申し上げます.
 この学会は,昭和58年に故高木健太郎先生(参議院議員,元名古屋市立大学学長 ,名古屋大学名誉教授)を中心に,事務局を健康科学センターにおいて発足させた「 生物リズム研究会」に始まります.10年間続いたこの研究会は1993年を最後に 「臨床時間生物研究会」と併合して,1994年から日本時間生物学会として生まれ 変わりました(日本時間生物学会誌,1:3-7,1995 を参照).
 近年,哺乳動物の時計遺伝子の発見などで,生体のリズムに関する研究は脚光を浴 びてきております.学会直前の10月15日にも,時差ボケなどに関係する体内時計 にかかわる遺伝子の働きが,脳の特定の場所によって支配されていることを,生命工 学工業技術研究所の石田直理雄室長らがネズミで解明した,という記事が新聞に掲載 されていました.本学会でも基礎的な研究が数多く発表され,口演のみでなく,ポス ターセッションでも,幾重にも人垣が出来て,白熱した討議が行われておりましたが ,本学会の運営を司った者にとって大変喜ばしいことでした.ちなみに,応募演題は ,昨年(83題: 早稲田大学)より3題多い86題でした.九州での開催ということを考えると,極め て盛況であったと思います.
 会長の私が臨床医であることに加えて,生体リズムの重要性を臨床医学へ是非導入 したい,という考えもあって,シンポジウムは「時間生物学の医学・医療への応用」 というテーマで次の7名の方々にお願いして,基礎から臨床医学さらには時間治療学 に及ぶ幅広いテーマで発表と討論が活発に行われました.

司会:山梨医科大学医学部 田村康二教授 
   九州大学薬学部   渡辺繁紀教授 

1.概日リズム異常と遺伝子 海老原史樹文(名古屋大学生命農学研究科)
2.リズム障害への分子時間生物学的アプローチ 海老沢 尚(埼玉医科大学精神科)
3.糖尿病モデル Otsuka Long Evans Tokushima Fatty (OLETF)ラットの体内時計機 能異常 島添隆雄(九州大学薬学部)
4.高齢者の概日リズム障害とそのアプローチ 三島和夫(秋田大学医学部精神科)
5.高血圧・心疾患に対する時間生物学的アプローチ 大塚邦明(東京女子医科大学 附属第二病院)
6.循環器系作用薬の時間薬理学 藤村昭夫(自治医科大学臨床薬理学)
7.生体リズムと時間治療 井尻裕,西川圭一(山梨医科大学第二内科)

 教育講演は若い研究者の参加も多いことから,「時計遺伝子から行動リズムまで」 というタイトルで,基礎から臨床まで幅広い分野で活躍しておられる北海道大学医学 部本間研一教授にわかりやすく解説していただきました.
 招待講演には,九州大学医学部婦人科学産科学中野仁雄教授をお招きして「胎児の 時間生物学」というタイトルで講演をしていただきました.中野教授はMedical Elec tronicsを駆使した技法で,胎児の眼球運動のリズム性を見事にとらえ,これまでほ とんど知られていない神秘的な世界の現象を私達に披露していただきました.胎児の 成長発達に関わる概念に対する示唆に富む講演でした.
 今回はじめての試みとして,類似の演題を集めてミニシンポジウム2題(「視交叉 上核」と「メラトニン」)を組み,一般演題より長い発表時間と総合討論の時間を設 定してみました.一般演題として申し込まれていたものからピックアップして,こち らで一方的に“ミニシンポ”としたため,戸惑われた演者もおられたかも知れません が,ベテランの座長のもとで行われたため,極めて有意義な討論が展開されたのでな はいかと,この企画には満足しております.

 もう一つの新しい試みとして,2日目の午後,学術大会と平行して一般市民公開講 演会を開催しました.第3回学術大会を開催された際,田村康二会長が大学内に本学 会のポスターを掲示していたところ,「“日本時間-生物学会”とはどんな学会です か?」と尋ねられた,と話しておられたのが,ずっと耳に残っていました.一般の方 々にとっては,なおさら“時間生物学”は馴染みのうすい言葉です.そこで,「生体 リズムと健康」というテーマで,4人の講師に下記のタイトルで講演をお願いしまし た.

司会:西岡和男理事長(福岡市健康づくりセンター) 藤島和孝教授(九州大学 健康科学センター)

1「生体リズムからみた高血圧・心臓病」     上園慶子(九州大学健康科学セ ンター)
2「生体リズムの乱れと登校(出社)拒否」    三池輝久(熊本大学医学部小児 発達学)
3「メラトニンは睡眠障害に有効か?」      大川匡子(国立精神神経研究所 )
4「生体リズムと薬の効き目−薬との上手なつき合い方を考える−」 中野重行(大 分医科大学臨床薬理学)           

 150名余の聴衆は非常に興味を持って熱心に聴いておられ,盛会のうちに終了す ることができました.もう少し工夫して宣伝を行っていたら,もっと参加者は増えた と思います.なお,この講演会の内容を中心に,一般の人にも理解してもらえる啓蒙 書を今秋には出版する予定です.
 最後になりましたが,一言謝辞を述べさせていただきます.一年前に会長を引き受 けたものの,それぞれ専門の異なる研究教育機関であるため,当センターの教官の応 援も望めず,大会の運営に行きづまりを感じていました.そのような時期に,九大薬 学部渡辺教授のご厚意で,島添助手の統率のもと研究室をあげての御協力いただき, 本当に助かりました.この紙面を借りて心から厚く御礼申し上げます.

 また,本大会における九大健康科学センター唯一の協力者であった上園慶子助教授 が,当日は勿論,学会開催のための準備一切を取り仕切ってくれましたことを附記し て,謝意を表します.



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編責: 吉田尚生@北大・地球環境
(1999/06/24)