さる11月7日〜8日、名古屋大学において第2回日本時間生物学会学 術大会が開かれた。周知のように、本学会は、生物リズム研究会と 臨床時間生物研究会が融合して誕生したもので、一昨年の東京での 設立記念大会の成功に見られるように、本学会に対しては大きな期 待が寄せられている。本大会を引き受けるに当たり、その期待に答 えられるかいささか心配ではあったが、学術大会を実質的な研究討 論の場にすることがわたくしに与えられた責務と感じ大会会長をお 引き受けした。時間生物学会は御承知のように極めて学際的な集団で、原核生物 からヒトに至るあらゆる生物を対象として、様々な方法論・技術を 用いて研究が行われている。植物の生物リズムからヒトの精神疾患 に至るまで従来の学問区分では捉えきれない幅広い研究が行なわれ ている。このような従来の学問領域を縦断するような新たな学問体 系を創出していくことは重要なことであるが、一方で、それぞれの 従来の学問領域の枠にとらわれた考え方や進め方が根強く存在する ことも事実である。
時間生物学会においても、その母体である基礎 研究を中心におく生物リズム研究会と治療を目的とする臨床時間生 物研究会からの会員では医学系と基礎科学系に区分される考え方の 違いが感じられる。学会や大会のあり方についてのそれぞれの考え 方の違い、また、専門用語の違いなど学会を今後発展させていくう えで解決してゆかねばならない課題は多い。本学会を企画するに当 たり、これらの問題を含め、どのようにしたら基礎と臨床研究をう まく融合させることが出来るかがわたくしにとってのテーマであっ た。ポスター発表を取り入れ、出来るだけお互いの研究が理解でき るように配慮し、また、口頭発表についても、基礎系と臨床系の発 表を同一会場で行ったのもそのためである。基礎と臨床系に共通す るテーマとしてシンポジウムでメラトニンを取り上げ、基礎研究か ら臨床への展開をテーマにかかげたのもこのような考え方に基づく ものである。幸いに、このシンポジウムには多くの聴衆が参加し盛 会に終わった。また、翌日の中日新聞でもシンポジウムの内容が取 り上げられた。今回は、メラトニンという共通項をテーマにするこ とが出来たが、臨床と基礎系の両者に興味のあるテーマを設定する ことはなかなか大変であるというのが実感である。
さて、学会当日は朝早くから多くの参加者が詰めかけ、合計して204 名の参加者(登録者数は230名)があった。学会員の総数からみて も、この数字はかなり高い出席率であり、本学会への期待を感じさ せるものがあった。発表演題は口頭発表43題(基礎系21題、臨床系 22題)、ポスター発表43題(基礎系28題、臨床系15題)の合計86題 であった。この他に、シンポジウム5題と特別講演がこれに加わっ た。これだけの内容を、2日間でこなすのは実際大変で、口頭発表の 時間を短くして何とか収めることが出来た。しかし、そのために十 分な発表と討論の時間を取ることができず、この点については今後 検討を要すると感じた。この他にも検討すべき点が幾つか感じられ た。
今後大会をスムーズに運営し、発展させていくために検討して いくべき事柄と思われるので参考までに書きとめておきたい。
一つ は抄録とプロシーディングについてである。今回は、前回の方法を 踏襲し、抄録集のみにしたが、英文の大会プロシーディングを作 り、何らかのメディアを通じて世界に公表すべきではないだろう か。本学会を国際的に認知させるためにもこのことは大切なことと 思われる。また、抄録の記載について今回も制約を設けなかった が、抄録の用紙を含めた記載方法の統一を考えたほうが良いように も思われた。
二つ目は、大会の企画についてである。本大会では、 大会事務局で一切の企画を行ったが、開かれた学会にするためにも 一般会員からの意見を大会の企画に反映できるようにする必要があ るのではないだろうか。例えば、シンポジウのテーマを公募するの も一案である。そのためには、学会としてそれに対応できるような 体制を組んでおく必要があろう。最後に学会の情報化の必要性を感 じた。コンピューターネットワークを利用し、一般会員からの意 見、提案などを吸い上げ、会員相互の意見交換ができる組織作りが 時間生物学発展のために必要であろう。時間生物学会のホームペー ジを作り、学会参加登録をはじめ会員からの意見の吸い上げ、さら にインターネットを介して学会情報を世界へ発信をすることを検討 すべき時期に来ているように思われる。
以上、大会を終えての感想を思いつくままに書きとめた。本大会を 開催するに当たり、多くの企業からご援助をいただいた。また、学 会のプログラム作りから運営に至るまで多くの学生諸君の協力を得 た。これらの支援がなければ学会を成功に導くことが出来なかった であろう。あらためてここに感謝申し上げる。
編責:
吉田尚生@北大・地球環境
(1997/01/28)